19世紀のダブリン。ホテルのウェイターとして働いているアルバート・ノッブスは実直なウェイターとして周囲の信頼を得ている。しかし彼には秘密があり、実は男装をしている女性だった。
ある日ペンキ屋の男がホテルに仕事で訪れ、アルバートの部屋に泊まることになる。そしてアルバートの正体がばれてしまい、アルバートはペンキ屋にどうか秘密にしてほしいと懇願する。ペンキ屋はアルバートの頼みを受け入れるが、ペンキ屋にもまた秘密があった。
ほとんどホテルの従業員関係者のみで物語が進んでいきますが、お互いの人間関係が少しずつ明らかになっていくにつれ、喜怒哀楽の表現も増えていきます。
アルバートが男として生きていくに至った動機にはそれなりの説得力がありますが、しかし他の生き方もあったのではないかと思います。何故かくも酷な生き方を選んだのか、というのは医師の言葉ですが、まさにその通りで、結局のところどのような生き方を選択するのかはその時の状況と判断によるもので、その積み重ねで人は歳を重ねていくものなのでしょう。
スラムを歩いている場面では通りに並ぶカラフルな建物がアイルランドっぽいですが、それ以外はアイルランド的なものはあまり感じませんでした。例えばこれがイギリスが舞台の話だと言われれば自分はそう信じて疑わなかったと思います。とはいえ、ホテルの名前がモリソンズだったり、チフスが流行ったりするのはアイルランドの歴史・文化をふまえた設定と考えられます。
登場人物たちの造形はわかりやすく、ボイラーを修理した男とヘレンの関係はその成り行きが予想しやすいです。そこにアルバートが加わっても、アルバート自身が傷つくだけになってしまうのも、ストーリー上は必然的なものなのかもしれません。最後に得をしたのはホテルの女主人だけ。いつの世も、心の優しい人が幸せになるとは限らない。
追記:この映画の脚本に、作家のジョン・バンヴィルが関わっているようです。
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