2012年1月15日

『バーチウッド』を読む 時系列

『バーチウッド』は、語り手ガブリエル・ゴドキンの主観的な視点から物語が語られています。そして、語り手の語りの内容が首尾一貫していない箇所が所々あり、読んでいて違和感を感じたり、矛盾ではないかと思える記述に出くわすことがあります。

例えば、物語の第二部後半で徐々にじゃが芋飢饉の影響が語り手たちに忍び寄ってくることから、第二部の時代は、歴史的な出来事にふまえて考えれば、飢饉の始まる1845年頃だと推定されます。

一方で、第一部(2)でバーチウッドの歴史が語られる際、語り手の曽祖父の時代の話があり、そこに出てくる地主のジョセフ・ローレスに関する挿話として、じゃが芋飢饉の最中に小作人が餓死しそうだと警告した監督官に対する回答の記述があります。

第一部(2)に出てくるじゃが芋飢饉が、1840年代後半のじゃが芋飢饉とは別の、もっと昔にあった出来事と捉えれば、時系列上の矛盾はありません。
逆に、ここで語られるじゃが芋飢饉が第二部後半の飢饉と同一と考えると、第一部(2)で語られる一族の歴史が、語り手による捏造、とは言わないまでも想像によるところが大きいのでは、と思われてきます。元々、語り手の生前の出来事(例えば両親の結婚前のエピソード等)を自分が実際に見ていたかのように語っていることからも、語り手の語りを鵜呑みにせず、語り手自身も記憶が錯綜しているなかでバーチウッドと自分の話を語り、読者はそのような曖昧な語り手の話を読んでいる、と考える方が解釈としては妥当かもしれません。

以上のことをふまえて、物語の時系列を筆者なりにまとめると以下のようになりました。
語り手の記述に正確な年数のわかるものがないため、多分に憶測を含んでいます。

<西暦不明>
語り手ガブリエル・ゴドキンが生まれる。

<西暦不明>
ガブリエル生誕から十五年後、マーサ叔母とマイケルがバーチウッドにやって来る。

<1844~5年頃>
ガブリエルがバーチウッドを抜けて、プロスペローの一座と旅に出る。

<1845~6年頃>
旅の始まりから約一年後、ガブリエルが一座を離れる。

<数週間か数箇月か数年後の春>
ガブリエルはバーチウッドに戻ってくる。

<一年後の春、聖ブリギットの日=2月1日>
第三部(5) 

<同年の夏>
第一部(1) ガブリエルはバーチウッドについて語り始める。

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